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2011年11月

「レーゼドラマ」という夢芝居 / ジュネーブ国際連合本部・地唄舞の夕べ

1)「レーゼドラマ」という夢芝居 

 欧米では戯曲は、上演目的のほかに、小説と同様「読む」ものでもあるように思う。

「レーゼドラマ―読む戯曲―」という劇場での上演を度外視した「読まれるため」の戯曲のジャンルもあるそうだが、上演を目的とした戯曲でも、小説やノンフィクションのように出版され、多くの読者に読まれている。

 パリのコメディ・フランセーズには、ラシーヌやジロドゥの本を見ながら芝居を観ている観客がたくさんいると何かで読んだことがあるが、日本の劇場で、脚本を膝に広げて舞台を観ている観客などは、能楽堂を別にすれば、ほとんどいないように思える。「お能拝見」の観客の場合は、純粋な観客はむしろ少数で、ほとんどが謡や仕舞を稽古している弟子たちに違いない。もちろん歌舞伎座の観客の中にも、長唄や清元の稽古をしている人もいるには違いないが、その数は、能楽堂とは正反対にごく限られた数だろう。また国立劇場の文楽公演では、プログラムに浄瑠璃の「床本」が載っているが、「床本」を「読み物として読む観客がはたして何人いるだろうか?

 これは古典演劇に限ったことではない。欧米の戯曲なら、私などもシェークスピアにしろテネシー・ウイリアムズにしろ、舞台を“観る”以前に、小説と同様翻訳された戯曲を読んでいたが、日本の現代劇の場合は、有名作家(ほとんどが小説家として一家をなした人たち)の戯曲はともかく、現在日本で上演されている戯曲のどれだけが出版され、「読者」を持っているだろうか?

 最近読んだ演劇評論家の中村哲郎氏の評論集「花とフォルムと」(朝日新聞社出版)に『日本では明治まで、戯曲の活字化はなかった』と書かれていて、江戸時代の歌舞伎の台本は部外秘密だったとも教えられた。

 こうした伝統もあってか、日本では戯曲は上演され「観られる」ためのものであって、「読まれる」ためのものでは、現在でもないようである。

 さて、今年の6月突然スイス・ジュネーヴの自宅に、東京の「無名塾」から国際電話が入った。E―メールで何事も用がすむ今日、国際電話やファックスなど絶えてもらったことがなかったので、ちょっとびっくりしたが、私の以前書いた「無明長夜」という戯曲を来年「無名塾」の公演で上演したいと言われて、二度びっくりした。

 「無明長夜」はもう10年以上も前に書いたもので、文化庁から1998年度の「舞台芸術創作奨励賞」をもらった作品である。日本の演劇界や劇団などになんのつながりも持たない海外在住の長い私がたまに書く戯曲は、まったく上演を無視して書いているわけではないが、上演の可能性などはじめから諦めていて、いわば「夢芝居」を書いているようなものである。

 「無明長夜」よりもっと前に三田文学に二号にわたって掲載してもらった「足利家の夫人たち」という長い戯曲も、その当時何かの賞をもらったが、むろんどこからも上演の話などなかった。(でも自分では自分の書いた戯曲の中で一番面白いものと思っている!)

「無明長夜」も文化庁の賞をもらったとき、演劇批評家の審査員の方からこれは「読む戯曲」で、上演は難しいでしょうねと言われたのを覚えている。だから今回「無名塾」という劇団が(正直言って「無名塾」と言う劇団の名前は聞いたことがあっても、彼らの芝居を観たことは一度もなかった)上演してくれると言われた時は、奇跡のように思った。

 私の書いた戯曲が、ごくたまにどこかの劇団で上演してくれると聞くときは、いつもほんとうに奇跡がおこったように思うのである。

 たとえ「レーゼドラマ」として書いた空想の夢芝居でも、生きた俳優が演じる舞台になれば、作者としてはこれに勝る喜びはないだろう。

 上演は難しいと言われた戯曲が、どんな舞台に生まれ変わるのか想像すると、今からちょっと胸がドキドキする!

               ―「三田文学・2011年・秋号」―

 

2)ジュネーブ国際連合本部・地唄舞の夕べ

『人間が共に分かち合う安らぎと平和の場』をテーマとした日本舞踊公演(地唄舞の夕べ)が、2011年11月3日、スイス・ジュネーヴの国際連合ジュネーヴ欧州本部の大会議場で開催された。


これは先の東北大震災及び福島原発事故に対する世界各国の支援にたいする日本からの感謝の気持ちを表す御礼として、ジュネーヴ国際機関日本政府代 表部の後援のもとに、日本の伝統舞踊を代表する舞踊家である吉村流六世家元・吉村輝章のボランティアを得て、日本大使館、日本・スイス協会(ロマンド支 部)及び、アトリエ日本舞踊ジュネーヴの共催で企画され実現した舞踊会である。

日本舞踊(地唄舞)の第一人者である吉村流家元吉村輝章は、すでにジュネーヴをはじめ、ベルギー、オランダ、ポーランドなどで公演活動を行ってお り、現地でもすでに高い評価を得ている舞踊家であり、国際連合ジュネーヴ欧州本部の大会議場での日本舞踊公演は、日本人としてはじめてである。

各国大使夫妻をはじめ、国際連合の大会議場をうめた1000人に近い満員の観客の感動と温かな拍手喝采のうちに幕を閉じた(会議場なので、幕はないのだけれど!)。

公演の後のカクテルで、こんなコメントを聞いた。

日本人はあの大災害にさいしても平常心を失わず、礼儀正しく、落ち着いて行動していたのが、西洋人の我々には不思議な気さえしたが、今回 『地唄 舞』を見て、こうした静寂で優雅な芸術と、日本人が育ててきたディシプリンというか、静かの心とに共通しているものを感じて、深く感動したと、言われた。
演目は、
1)『善知鳥』吉村輝章 、(後見、神崎ひで一)

2)『古道成寺』を吉村三鈴と輝章(後見、神崎ひで一)

3)『雪』吉村静